別冊

6月1日号

片田舎のガソリンスタンドに訪れた夏を見ていた

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10号線を走っているとこんなガソリンスタンドに立ち寄ることがしばしばだ。
ローカルだがフォークロアなアメリカンライフが満ちていて、なかなか風情がある。
バグダットカフェとはこんな感じのシチュエーションだったのかもしれないな、と想いながら5分ほど片田舎のガソリンスタンドに訪れた夏を見ていた。
店内にははく製がズラリと並び、地元のハンターが仕留めた写真を飾っていた。
解っているつもりの自然保護だが、人間の生き延びるための狩猟本能はなくすわけにはいかない。店内には地元の働く男達が昼ご飯をしていて、その朴訥だが精悍な顔つきにはどこか親しみがわいた。
下手をすれば命取りになるバイク乗りがおなじく死と隣り合わせになる狩人の憩いの一時を共有したからかもしれない。
この店で男達はみなベルト通しに小型ナイフを付けていた。コレクション品でなく実用品としてのナイフ(12ドル)がかっこよくて買う買わないをさんざん迷ったあげく買ってしまった。
『用もないのに物欲に狩られた俺は馬鹿だな』と想いながらも『しかし人間はもともと道具を持つ知恵のおかげでここまで発達してきたんじゃないか、どんどん道具を使うべ』と無理やり自分を納得させて、即その場でうれしそうにベルトに通した。アメリカのバイク乗りのスタンダードファッションはジーンズ、革ジャン(夏の昼間はTシャツに皮のベスト)、ベルトに小型ナイフというのが決まりみたいだ。アメリカを走ってみてわかったのだが革ジャンはその寒さと風のきつさからして必要、皮のベストは護身と虫の体当たりから必要なのだ。だがしかしナイフは何故しているのかわからない。実際にしてみると、なぜか安心する。広大なアメリカではなにがおこるかわからない。それに対する武器でもあり、何かをする道具でもあるのがナイフだ。考えてみれば人間なんて急所を丸出しにした弱い動物にすぎない。ナイフを身に付けているだけで、荒野の真ん中では安心するのも当然な話かもしれない。
それから10号線を走って30分後、事故で交通規制が引かれていた。大型トラックがガードレールに激突して、積み荷の30cmほどの缶が散乱していた。
「くぼたつさんがナイフ買わなかったら、事故に巻き込まれていた時間計算になりますね」と松本さんが言った。
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